判断基準を決めて、現場に配って、唱和もしている。それでも、決めたことが本当に使われているかどうかは分からない。安全のご担当の方から、こうしたご相談をよくいただきます。

決めるところまでは、多くの組織がたどり着きます。その先、決めたことが現場で使われ続けているかどうかを、何を見て確かめるのか。そこはあまり語られていません。

この記事でお見せするのは、Culture Design Program(カルチャー・デザイン・プログラム、CDP)で実際に見ている指標と、その見方です。私たち自身が自社で実践し、商談の場で説明してきた内容になります。

結論

CDPが定着したかどうかは、一人ひとりの意識が高まったかどうかではなく、決めた言葉が現場で実際に口に出ているかどうかで確かめます。

先に動くのは「口に出た回数」と「指摘の回数」で、事故件数や手戻り件数といった結果は、そのあとから動きます。先に動くものとあとから動くものを、先行指標と結果指標に分けて見ないと、進んでいるのに「変化なし」と判断してしまいます。

この記事で分かること

  • 定着を「意識」ではなく「口に出る回数」で確かめる理由
  • 変化が起きる順番と、そのうちCDPが直接動かす範囲
  • 先行指標と結果指標の分け方(安全部門と、それ以外の組織への読み替え)
  • 最初の半年、報告や指摘の件数が増えるのが正常である理由
  • 決裁者に説明するとき、何を約束し、何を約束しないか

01なぜ「意識が高まったかどうか」では確かめられないのか

意識は外から見えません。見えないものを根拠に社内を説得しようとすると、説明が行き詰まる場面が生まれます。

決めたことが現場でどう使われているかを伺うと、そもそも分からない、というお答えをいただくことが少なくありません。毎朝の唱和で番号まで言えるようになっているのに、その場面になると抜けてしまう。そうしたお話も、業種を問わず伺います。守る気がないわけではない、守ったほうがいいと誰もが思っている、それでも守られずに事故が起きる、というご相談です。

安全部門の方からよく聞く声に、次のようなものがあります。事故が起きず、結果の数字が動かないままだと、取り組みが進んでいることを社内に伝えられない。かといって数字で改善を示すと、今度は「そもそも大した問題ではなかったのではないか」と受け取られてしまう。結果の数字だけで価値を証明しようとすると、どちらに転んでも説明がつかなくなります。

災害は、知らないから起きるとは限りません。ルールは知っている、危険も分かっている、それでもその一回をやらなかった。現場ではこうした場面が生まれています。教育を続けているのに件数が横ばい、という状態はこうして起きます。知識が増えても、その瞬間に言えるかどうかは別の要因で決まります。

その瞬間の判断を決めているものは、大きく三つあります。時間の圧力、疲労、そして周りがどう思うかです。急ぐなと言っても現場は急ぎますし、疲労をゼロにすることもできません。会社が設計できるのは三つ目だけです。

三つ目が設計されていない場面は、度々見かけます。手袋が配られているのに、暑いからと外したまま作業して手を切る。二人で運ぶ決まりの作業を、声をかけるのが申し訳なくて一人で運び、転ぶ。どちらも、知らなかったわけでも、道具がなかったわけでもありません。その場の空気のほうが、決めたことより強かった、ということです。

多くの組織が目指しているのは、人が入れ替わっても判断が揃う組織文化です。そこへ向かうには、判断の基準そのものを現場が使える形に組み替える工程が要ります。私たちが「文化設計」と呼んでいるのは、この三つ目に働きかける設計のことです。

02「定着した」とは、どういう状態を指すのか

私たちが定着と呼ぶのは、決めた言葉(判断基準)が現場で実際に口に出ている状態のことです。研修の満足度でも、方針への賛同でもありません。

行動が変わるのは、意識が変わったからではなく、周りから言われる回数が増えたからです。だから「回数」で設計し、「回数」で確かめます。

その状態に近づくと、現場の見え方はこう変わります。危険を感じたら止めるという行動が、指示を待たずに現場から生まれる。迷ったときに立ち返る基準がある、と担当者が言えるようになる。言葉が口に出るようになると、現場では二つのことが起きます。

指摘のコストが下がる

指摘には「あなたは気づいていなかった」という含意が伴います。共通の言葉がないと、指摘は人への評価として受け取られがちです。「これは○番ですよね」と言えれば、人ではなく基準の話になり、言う側の負担が下がります。指摘が増えるのは、気づく力が上がったからではなく、言いやすくなったからです。

「言っていい」が事実として確認される

毎日それを口に出す場があると、「言ってみたが何も起きなかった」という経験が積み重なります。空気は、宣言ではなく回数で変わります。方針として「何でも言っていい」と掲げるだけでは、この経験は積み上がりません。

03変化はどの順番で起きるのか

順番があります。言葉ができる、現場で口に出る、指摘が増える、隠れていたものが表に出る、そして結果が動く、という順です。CDPが直接動かすのは、このうち最初の二つです。

言葉ができる、現場で口に出る、指摘が増える、隠れていたものが表に出る、結果が動く、の順に変化が起きることを示す図。最初の二つがCDPが直接動かす範囲、二つ目から四つ目が先行指標、最後が結果指標。
▲図1:言葉ができてから結果が動くまでの順番

出典:イーバリュー作成

結果指標だけを見ていると、最初の二つが動いていても「変化なし」に見えます。件数は減っている気もするが、しばらくするとまた増える。その繰り返しに見える、というお話も伺います。増減の波としか見えない状態です。先行指標を並べて初めて、その波の手前で何が動いていたのかが分かります。

04具体的に、何を見ればよいのか

先行指標と結果指標を別々に置き、先行指標は短い周期で、結果指標は長い周期で見ます。下表の「安全部門」列は安全部門向けの説明として実際に使っている整理、「安全以外の組織」列はそれ以外の組織に読み替えた例です。

区分 安全部門 安全以外の組織(読み替え例)
先行指標
(先に動く)
  • ヒヤリハットの報告件数
  • 現場での指摘・声かけの回数
  • 朝礼などでの発言者数の広がり
  • ルール逸脱の自己申告件数
  • 基準を口に出した回数
    (「これは○番ですよね」)
  • 現場で判断が分かれた場面を持ち寄った件数
  • 発言者数の広がり
  • 「迷った」と言えた回数
結果指標
(あとから動く)
  • 事故件数
  • 休業日数
  • 保険料・行政対応の負荷
  • 手戻り・やり直しの件数
  • クレーム件数
  • 担当者ごとの対応のばらつき
  • 離職・定着

先行指標(先に動く)

安全部門

  • ヒヤリハットの報告件数
  • 現場での指摘・声かけの回数
  • 朝礼などでの発言者数の広がり
  • ルール逸脱の自己申告件数

安全以外の組織(読み替え例)

  • 基準を口に出した回数
    (「これは○番ですよね」)
  • 現場で判断が分かれた場面を持ち寄った件数
  • 発言者数の広がり
  • 「迷った」と言えた回数

結果指標(あとから動く)

安全部門

  • 事故件数
  • 休業日数
  • 保険料・行政対応の負荷

安全以外の組織(読み替え例)

  • 手戻り・やり直しの件数
  • クレーム件数
  • 担当者ごとの対応のばらつき
  • 離職・定着
▲表1:先行指標と結果指標の置き方

いずれも、新しい測定の仕組みを入れなければ取れない数字ではありません。多くは既に記録されているか、数えると決めれば数えられるものです。まず先行指標を一つか二つ決め、それを毎月見るところから始められます。

05最初の半年、件数が増えるのはなぜか

最初の半年、報告や指摘の件数は「増えます」。これは悪化ではなく、今まで表に出ていなかったものが出てくるようになったサインです。

むしろ、増えない場合こそ、設計が効いていない可能性を疑います。言葉を決めたのに口に出る回数が変わらないのであれば、言いにくさのほうが残っているということです。

重大な事故の背後には、多数の軽微な事故と、さらに多くのヒヤリハットがあるとされています。ヒヤリハットの段階で表に出てきているかどうかが、現場が健全に回っているかを見る手がかりになります。結果指標が動くのは、その先の話です。

この点は、導入前に決裁者と共有しておいてください。あとから説明すると言い訳に聞こえますが、先に伝えておけば、件数増はそのまま進捗の証拠になります。

06他の業界では、どう確かめられてきたのか

知識を足すのではなく、「言える」「止められる」のほうを設計した領域で、成果が出ています。代表的な例を挙げます。

航空業界

起点は、1979年にNASAが開催したワークショップです。ここでコックピットのリソース・マネジメントという考え方が提示され、後のCrew Resource Management(クルー・リソース・マネジメント、CRM)につながりました。

その後、1988年のIATA(国際航空運送協会)の調査結果により、航空事故の多くが、乗員個々の知識や技量とは関係なく、乗員間の連携に問題があるものだったことが明らかになります。

訓練の対象になったのは操縦技術ではなく、コックピットの中の関係性そのものでした。日本でも、航空局の通達により2000年4月から乗務員のCRM訓練が実施されています。

出典:総務省消防庁 検討会資料「CRM(Crew Resource Management)について」
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento204_10_shiryo12.pdf

製造現場と手術室

「異常があればラインを止める」は、ルールとして誰でも書けます。実際に止められるかどうかは、止めたときに怒られる職場か、褒められる職場かで決まります。健全な現場ほど、止めた回数は多くなります。

手術室では、世界保健機関(WHO)が2008年に公表した手術安全チェックリストが世界各国で使われています。並んでいるのは患者名の確認といった当たり前の項目ばかりです。効いたのは項目の目新しさではなく、声に出して確認する場が手順として置かれたことでした。

出典:厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)総合研究報告書
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/144011/201424005B_upload/201424005B0011.pdf

07決裁者に説明するとき、何を約束し、何を約束しないのか

約束するのは「何を見るか」と「どの順番で動くか」です。「何件減る」「何%改善する」は約束しません。件数を見ることと、件数を約束することは別です。

何を成果物として、その効果をどう測って、何を良しとするのか。実際に決裁者の方からは、このような問いをいただきます。コンセプトの話は他社からも聞くが、結局は言いっぱなしになりがちだ、というご指摘をいただくこともあります。正当な問いだと考えています。

成果物は三つあります。判断基準の言語化、クレドブックなどの現場ツール、評価・会議・育成への組み込みという運用設計です。ただし見るのは、これらが納品されたかどうかではありません。決めた判断基準が現場で使われているかどうかです。

半年で事故を何件減らすと約束すると、報告件数が増える最初の半年で説明がつかなくなります。順番と指標を約束しておけば、同じ期間の件数増を「設計どおり」として報告できます。上司に説明する段階で使うべきなのは、成果の見込みではなく、この設計のほうです。

08よくある質問(FAQ)

Q1.先行指標は、どのくらいの頻度で見ればよいですか。

月次を目安にします。先行指標は週から月の単位で動きますが、結果指標は四半期から年の単位でしか動きません。同じ頻度で並べて見ると、結果指標が動いていないことばかりが目につきます。適切な頻度は組織の規模や業務の周期によって変わるため、導入時に決めてください。

Q2.先行指標は、誰がどうやって集めるのですか。現場の負担が増えませんか。

多くは既に誰かが記録しています。ヒヤリハットの報告件数や朝礼の記録がその例です。新しく数えるものがある場合も、集計は現場ではなく管理側で担ってください。現場に集計作業を足すと、その作業自体が負担として受け取られ、かえって口に出る回数が減ります。数える人と、口に出す人は分けます。

Q3.複数の拠点や部署がある場合、どこから始めればよいですか。

全社一括で始める必要はありません。一つの部署、一つのラインから始めて、そこで先行指標が動くかどうかを見るほうが、判断材料が早く手に入ります。範囲が狭いほど、言葉が実際に口に出ているかどうかも確かめやすくなります。広げるのは、動くことが確認できてからで間に合います。

Q4.既に行っている安全活動や危険予知活動とは、どう両立させますか。

置き換える必要はありません。既にある活動は、判断基準が口に出る場としてそのまま使えます。朝礼や危険予知活動の中で「これは○番ですよね」と基準を引く回数が増えれば、それがそのまま先行指標になります。新しい会議体を作るより、既にある場に基準を持ち込むほうが回数は増えます。

Q5.先行指標を目標にすると、数合わせが起きませんか。

起こり得ます。そのため件数は、個人や部署の評価ではなく、設計が効いているかを見る手がかりとして扱います。個人の成績として集計しない、未達を咎めない、という運用を先に決めておくことが前提になります。

Culture Design Program(CDP)のご相談

自社の場合にどの指標を置けばよいか、どこから始めればよいかについては、CDPのページからお問い合わせください。

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出典一覧

総務省消防庁 検討会資料「CRM(Crew Resource Management)について」
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento204_10_shiryo12.pdf

厚生労働科学研究補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)総合研究報告書
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/144011/201424005B_upload/201424005B0011.pdf

※ 本稿に示した指標は、自社で実践し、商談の場で用いている整理です。外部企業への導入事例に基づくものではありません。

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