イーバリューでは、2010年から事業活動を行っている環境コンサルティング事業と、数年間で新たな分野に挑戦している新規事業があります。そのどちらにも、売る仕組みをつくるマーケティングの役割が欠かせません。
今回は、市場の声を第一に重んじるイーバリューのマーケティングについて解説していきます。
現場主義の原点
私たちのマーケティングの原体験は、私たちのルーツである株式会社ミズノで起こった2000年代初めの出来事にさかのぼります。
ミズノの事業の一つは産業廃棄物の運搬。いつものように廃棄物の回収作業をしている時、とある布団販売店の倉庫裏に積まれた発砲スチロールや梱包用ビニールをまとめた袋の数々を見つけました。廃棄物を回収する専用の“コンテナ“に入れるにはかさばり、そのままでは軽くて風で飛ばされるため重石をしながら保管されていました。
これらを、お客様が簡単に保管できて、回収も楽にできる方法はないかと考え、作られたのが「発砲スチロール回収サービス『ふくろうさん』」です。サービスが出来上がり、地域のあらゆる店舗や企業へ一斉にFAX・DMを送ったところ、最初に問合せが来たのは、その布団販売店でした。
この話は、クレドブックにも記載され、イーバリューのマーケティング哲学の元になっています。
既存事業である環境コンサルティング事業の拡大期には、新たなサービスを企画・プロモーションする際、代表から「このサービスを求めている企業・担当者の名前は?その人はどんな性格?日々の関心事は?」「その課題をお客様はどんな言葉で語っているのか?本当にその言葉でお客様が使うのか?自分たちの言いやすい言葉や、耳あたりの良い言葉に言い換えていないか?」と毎日のように投げかけられ、ペルソナマーケティング(※)の手法を用いてサービス企画や広告を進めていきました。
現在も、それぞれのプロジェクトで「ユーザーやターゲットになる方々は何を感じ、どのような言葉を使っているのか?」を考え、施策を検討しています。
※ペルソナマーケティング…ユーザー像を具体的に設定してユーザーの思考や行動傾向を分析することで、施策を最適化するマーケティング手法
ヒアリングによる情報収集とマーケティング理論の活用
新規事業開拓のための様々な活動の中で、私たちは特にヒアリングを重要視しています。
ヒアリングのタイミングは、サービスサイトからお問合せや資料請求をいただいたとき、商談などの打ち合わせの中、サービスの利用中など、目的に応じて様々です。担当窓口を務めるコンサルタントだけではなく、ヒアリングやサービス利用中のフォローを行うチームも編成し、顧客ニーズの把握に努めています。ここからは目的ごとにヒアリング活動を紹介します。
①業界の動向、顧客ニーズや課題を把握するヒアリング
鉄鋼・化学・半導体などの業界の動向を把握するために、業界紙をはじめとしたニュース・報道から情報収集をしています。加えて、環境関連の法律改正情報も確認。
イーバリューでは、これらの業界全体の動きを前提としながら、“現場”に重きをおき、顧客の生の声を重要視しています。定期的にクライアントへヒアリングするだけではなく、お問い合わせや資料請求をいただいた方にどのような背景があり、何かきっかけでお問合せをいただいたのか、どのような課題があるの等を確認します。最近の関心事は何かなど、自社サービスや環境業界という枠にとらわれずに聞いていきます。
ヒアリング項目の例
・イーバリューの提供サービス以外の範囲でのご担当業務
・今、最も改善したい課題
・最近、新たに導入したサービス
ヒアリングで伺った情報から、市場性があるか、自社で提供するサービスとして実現可能性があるか、競合他社はどのような状況かなどを検討します。その後、5フォース分析や3C分析、4P分析などのマーケティング理論を活用しながら、分析を行い新サービスを企画していきます。
②テストマーケティング
新サービスの方向性や大枠の企画内容が決まったら、テストマーケティングを行います。BtoBの場合、テストできる母数が限られているため、無駄が無いように内容・スケジュールをしっかりと検討する必要があります。一方、刻一刻と変化していく市場の状況を察知するために、イーバリューの強みの一つである機動力で、スピード感をもって進めることも重視しています。
テストマーケティングでは、ヒアリングに加えて、広告やダイレクトメールなども実施することで、実際の市場の反応を確かめます。その結果を企画会議で検討し、続行するか、打ち切りにするかを決定します。
③“サービスを必要としている人“への訴求にこだわったプロモーション
広告をはじめとして、サービスサイトやランディングページ、サービス資料等のプロモーションでは、“サービスを必要としている人“、つまりマーケティング用語でのターゲットへの訴求を強く意識しています。前述のペルソナを活用し、ターゲットが使う言葉、しっくりくるデザインで、困っている人に適切にサービスを届けられるように、また新しい課題解決の方法を市場に浸透させられるようにしています。
● 事例
ここからは具体例を紹介していきます。
Prime College
サービス概要:サブスク形式のeラーニングシステムで、製造業向けの環境教育に特化したコンテンツを100本以上視聴可能。
ポイント:レッドオーシャンの中で、ニッチな領域で専門性を特化させる戦略
もともとかなり競争が激しいレッドオーシャンであったeラーニング業界。
当初、プロジェクトチーム内では、5フォース分析や3C分析などをもとに議論する中で、自社の強みである“サポート力”を打ち出して、展開していくという意見が多く出ていました。ただ、すでにサポート力を強みとしている競合が他におり、戦略を決めきれない状態でした。さらに議論を重ねる中で、お客様が求めているのは専門性の高い動画なのではないか?また、新規参入である私たちのこの業界で競合に勝てるのは、専門性なのではないか?ということに。
その結果、eラーニングの中身であるコンテンツの専門性と質、量で勝負する戦略に決定しました。
環境ナレッジ・デスク
サービス概要:インターネット上で法解釈の相談ができるシステム
ポイント:お客様の「あったらいいな」を形にしたサービス
環境事業でお取引のあるお客様の声から生まれたサービスです。その方は大手製造業の本社の廃棄物管理担当者様で、日常的に全国の工場から「この廃棄物はどのように処理をしたら法的に問題がないのか?」などと、法律の解釈に関する質問が多く上がっており、その対応に苦労していました。ご自身で判断しかねるものも多く、環境省や自治体に確認したり、同じような質問が別の工場から度々上がってきたりとかなり時間がかかっていました。
また、行政に相談する際には、ある程度の知識やテクニックを持った上で相談しなければ、得たい回答が得られないこともありました。
このようなお悩みを伺い、出来上がったのが環境ナレッジ・デスクです。お客様専用のwebページ上で、法解釈の相談をイーバリューに直接できる仕組みをつくりました。全国の工場とも共有され、過去の質問を検索することができ、その企業ならではの「ナレッジ(知識・知見)」が蓄積されていきます。
産業廃棄物熱分解装置
サービス概要:化石燃料を一切使わず、廃棄物の量を大幅に減らせる装置
ポイント:パートナーの製品の魅力を届ける
他社製品について販売代理店という枠を超えて、マーケティングを含めた営業活動を行うこともあります。2023年よりイーバリューは、産業廃棄物熱分解装置『Vertex(ヴェルテックス) ゼロシステム』を販売する株式会社ヴェルテックスジャパンとパートナーシップを締結しました。この装置は、化石燃料を一切使わず、電子によって廃棄物を熱分解し、大幅に減容化させるシステムです。コスト削減やリサイクル率をアップさせる、これまでになかった廃棄物処理方法です。
しかし、これらの情報はほとんど世間に知られていない状態でした。販売元としては、メーカー等の環境部門にもっと広めたいと考えていましたが、自社のこれまでの営業活動ではなかなか難しかったようです。そこでイーバリューでは、世の中に知ってもらうために、広報や広告などによる情報発信や、専用サイトの作成、営業活動を始めました。実際に装置を見て、サービス資料やプロモーション動画を作成。また、パートナーと密に連携を取りながらマーケティングをした結果、約1年が経過し、商談件数は約150件、実証試験件数も約50件となり、導入完了したお客様も現れてきました。
④期待に応えるサービスの改良
サービスをつくって終わり、提供して終わりではなく、変化する市場環境や、その環境に応じて変わる顧客ニーズに合わせて、改良を重ねていくことも重要です。
そのために、定期的にユーザーへのヒアリングを実施します。改めてお伺いすると、新たな課題や、お困りごとに加えて、意外と把握していなかったイーバリューの評価ポイントや、期待していることが分かります。こういった内容をもとに、足りていないところを補い、評価いただいている点を伸ばせるように社内でバージョンアップのためのプロジェクトをスタートさせます。
このように商品企画や戦略の段階から、実際にお客様に知っていただくまで、様々な工夫をしています。それは、イーバリューの「社会の期待を、ビジネスの基準に。」というミッションを達成したいという思いがあるからです。お客様の「もっとこうなればいいのに」という声をしっかりとキャッチアップし、それをサービスとして形にする、期待を上回っている製品が既に存在するのであれば、それを求める人に知らせていく。その活動によって業界全体の基準を上げていく。それが私たちの使命だと考えています。